年老いた母も、わたしも、それぞれ一人暮らし。
最近、家で一人になると、少し寂しいと思うことが多くなった。むしろ母の方が元気そうだ。
それって、一緒に住めば解決なんじゃないの?
週末がやってくると車で30分かけて会いに行く。買い物とか病院とか、何かにつけていちいち30分だ。
光熱費も家賃も二人分。車で30分。何が言いたいかというと、一緒に住めばメリットの方が多いのではないだろうか。
光熱費や食費などの生活費、家賃だって一人ずつより安くつく。わたしは「ただいま」と玄関を開ければ、明るいリビングと「おかえり」が手に入り、もしかしたらご飯も出来上がっている。
そうか。
寂しかったのかも。
自由気ままに一人暮らし
一人暮らはそりゃ快適だ。
ご飯は自分好み。洗濯する日としない日がある。夜更かしして起きる時間が遅くなっても誰にも文句言われない。
掃除なんか、めったにしない。
ときどき掃除機をかけて、あとは目につくほこりやごみをとりあえず拾って捨てておけば、もう気にならない。
好きなテレビ番組を見れるし、映画を見ながら泣きじゃくっても恥ずかしくない。
一人暮らしは自由だ。
母も、20年ほど前に父が亡くなり、わたしの兄妹が所帯を持ってからは一人で暮らしてきた。
まだまだ元気で、家から最寄りのスーパーまで通常は徒歩10分の距離を、天気と荷物によるが、倍の20分近くかけて一生懸命歩き、スーパーの隅っこにある休憩所で友達としゃべって買い物して帰るという生活をしている。
ときには内科、整形外科、眼科にも行き、自治体で行っている体操教室にも参加している。歳は78。
どうせいつかは同居とか、介護、通院の補助なども必要になるだろう。どうせなら、一緒に住んで目の届くところにいてくれたら楽ではある。
洗濯や掃除はしてくれるだろうし、あわよくば、温かいご飯を作ってくれたらありがたい。
でも、いまは母はまだ元気で、友達も周囲にたくさんいる。そこから引き離して、今更娘と暮らして家事をするなど自由でなくなる暮らしを、母はしたいと思うだろうか。
しかも、わたしが住んでいるところは、よく言えば自然に囲まれている。
スーパーは通常徒歩約7~8分のところにあり、母の足で約15分くらいで行けるものの、電車に乗るには最寄りの駅までバスに乗らないといけない。
この家の前にはまあまあな坂道があって、外出したら帰宅のためにはその坂道を歩かなければならない。
呼べない。こんな不便なところ。
以前、思い切って聞いてみたことがある。
「いつかあの家に来る?」
「いや~、あの坂やろ?わたしこっち(いまの家)の方がええ、友達もたくさんいるし、一人が楽やし」
「ですよね~」
だけどよぎる、将来への不安
母の即答ではたと考えた。母のいまの不安は、わたしの将来の不安である。
しかも、母にはわたしという補助できるものがいるが、わたしが母の歳になったころはどうだろう。
助けてくれる者は誰もいず、あの坂を、重たい牛乳パック抱えて歩いて帰ってこなければならない。ネット社会とはいえ、牛乳パック1個だけ注文するのは気が引ける。
倒れたり、怪我したりして、いよいよ一人で歩くことができなくなったとき、わたしはいったい誰に肩を貸してもらえばいいのか。
急に危機感が募ってきた。
これは、これは、、、
もっと生活しやすいところに引っ越しを考えるべきではないか。
どうせなら買うことを考えたほうがいいかもしれない。正社員になってちょうど4年が過ぎた。住宅ローンを組めるかもしれない。
「終の棲家」を探すチャンス到来なのではないだろうか。しかも年齢からしてたぶん最後のチャンス。
そうとなれば、善は急げ、だ。
今の家より駅やスーパーに近い物件を探そう!あ、病院も。よし!
母に提案してみた。坂道なくて便利なところを探そうかと。
まだ相変わらず元気だし、友達ともスーパーの隅っこにある休憩所でおしゃべりして買い物して帰ってくるのだ。
きっと前みたいにあっさり「ここで一人の方がええ」と言うんじゃないかと思った。ところが、歳を重ねたからか、意外と今回はのっかってきた。
「友達に会えなくなるし、いまより自由じゃなくなるけどいいの?」と聞いてみたところ、母の答えはこうだった。
「家で一人でいるよりいい」
別に、近所の友達と喧嘩したわけでもない。
相変わらずご近所さんたちとは仲良くしており、スーパーの休憩所でのおしゃべりやらカラオケにも行くのだそう。
ただ、家に一人でいることが近頃心細くなってきたのだという。さみしい思いもさせていたかも。
残りの人生、安心して暮らそう
お母さん、いつからそう思うようになっていたのか知らないが、そういうことなら一緒に暮らそう。
もっと便利なところを探そう。
これがわたしの家探しを決めたきっかけ。
家を買おう。母と暮らす家を。
そして、喧嘩もするけど、そこそこ楽しい生活を送ろう。
家を買う!
わたしと母の家探しが始まった。
インターネットの広告や新聞を見ながらあーだこーだと理想を語り合い、慣れない不動産屋さん通いデビューした。
そこで起こる波乱の幕開けです。